あのベンツよりも歴史が長いメーカーも!? フランスの自動車ブランドを解説
フランスは、ドイツと並んで長い自動車文化の歴史があります。
世界最古の自動車メーカーといわれるプジョーをはじめ、シトロエン、ルノー、ブガッティ、パナール、マトラなどが、個性的な名車を数多く送り出してきました。
現在はルノーとルノーから独立したアルピーヌ、ステランティスN.V.傘下のプジョー、シトロエン、シトロエンから高級ブランドとして独立したDSがあります。
ここでは、それぞれのブランドと代表的なモデルを解説します。
- Chapter
- ドイツとともにヨーロッパのモータリゼーションを牽引してきたフランスメーカー
- 世界最古の自動車メーカー『プジョー』
- 独創的なデザインやメカニズムを採用する『シトロエン』
- シトロエンから独立したフランス唯一の高級車ブランド『DSオートモビル』
- 小型車を得意としてきたルノーは日産とのアライアンスで変化も
- アルピーヌは新型A110だけでなくルノーのモータースポーツも担う
- メーカー/ブランドの再編が進んでも独自性を守り続けるフランス自動車ブランド
ドイツとともにヨーロッパのモータリゼーションを牽引してきたフランスメーカー
モータリゼーションの発展にはモータースポーツが欠かせず、世界最古の本格的なレースは1894年にフランスで開催された「パリ~ルーアン・トライアル」といわれています。このレースで優勝したのは、世界最古の自動車メーカーであるプジョーでした。
また翌年の「パリ〜ボルドー」レースでは、タイヤメーカーのミシュランが独自のマシンを仕立てて参戦。空気入りタイヤで完走をはたすなど、こちらもモータリゼーションにおおきく貢献してきました。
しかし第二次世界大戦により敗戦国のドイツやイタリアだけでなく、フランスやイギリスでも自動車業界に変化がありました。
戦後のフランスでは、ルノー、シトロエン、プジョーが相次いで小型車を発表。クルマの普及には大衆向けの安価な小型車が不可欠であり、フランス(イタリアも)の自動車メーカーが注力してきたジャンルといえるでしょう。
もちろん、そのほかのスポーツカーやサルーン(セダン)、ステーションワゴンなどの登場。近年のMPV(マルチパーパスビークル)やSUVなどの流行、電動化への対応はほかの国や地域と同じような流れになっています。
世界最古の自動車メーカー『プジョー』
1889年のパリ万博で最初の自動車(蒸気三輪車)を公開したプジョーは、1974年にシトロエンを吸収し、PSAプジョー・シトロエン、グループPSA時代を経て、現在はフィアットとクライスラーのとの合併により誕生したステランティスN.V.傘下にあります。
プジョーの代表的なモデルは、いまも昔もコンパクトカーといえるでしょう。
プジョーは数字(真ん中にゼロを挟んだ3ケタや4ケタ)を車名につけることが多く、ポルシェが901の車名を911へと変更したのはクルマ好きには有名な話です。現行モデルのBセグメントの208、Cセグメントの308は、走りと乗り心地のバランスに優れたハッチバックモデルです。
また世界的に流行しているSUVにも注力していて、2008をはじめミドルサイズの3008、3列シートSUVの5008をラインナップしています。
同時に電動化対策として“パワー・オブ・チョイス”というコンセプトを掲げ、コンパクトハッチの208にEVのe-208を設定。コンパクトSUVの2008にもe-2008を用意しています。
またSUV全盛のなかでもバカンスの国生まれらしく、多くの荷物を積めるステーションワゴンの308SWもラインナップ。
そのほか、シトロエン、フィアットとブランド違いの兄弟車であるフルゴネット(MPV)のリフターも設定されています。
昔から、その独特のしなやかな乗り味から“猫足”といわれてきたプジョーですが、現在はやや引き締まった乗り味に変化しています。
とはいえ、いずれのモデルもハンドリングと乗り心地のバランスに優れていることがプジョーの特徴です。
独創的なデザインやメカニズムを採用する『シトロエン』
それぞれ独自のカラーを持つフランスメーカーのなかにあって、しばしば独創的と紹介されるメーカーがシトロエンです。
シトロエンも小型車に注力してきた歴史があるいっぽうで、古くはヨーロッパではじめて大量生産方式を採用したタイプAに始まり、前輪駆動にモノコック構造を採用したトラクシオン・アヴァン、窒素ガスとオイルを使ったエアスプリングと油圧シリンダーを組み合わせたハイドロニューマチックサスペンションシステムを採用したDSなどが歴史をつくってきました。
このハイドロニューマチックサスペンションシステムは、時代とともに進化し、2015年まで生産されたCセグメントモデルのC5まで使用。その構造からオイル漏れなどの故障は、ある程度宿命といえそうですが、現在もマニアから根強い支持を集めています。
最新のラインナップは、コンパクトカーでは、BセグメントのC3、CセグメントのC4があります。
C3は、プラットフォームは古いものの、同セグメントで最上といえる乗り心地を提供するコンパクトハッチバック。C4は、クロスオーバーSUV的スタイルのハッチバックで、EVのE-C4エレクトリックも設定します。
シトロエンらしい独創性をもっとも堪能できるC5 Xは、ステーションワゴンの車高をあげてクロスオーバースタイルとしたモデルです。
いっぽうSUVは、クロスオーバーモデルのエアクロスSUVをC3とC5に設定。MPVのベルランゴはプジョー/フィアット/シトロエン3兄弟のなかでもっとも人気があります。
さらにC5 XとC5 エアクロスSUVには、プラグインハイブリッドが用意されます。
シトロエンから独立したフランス唯一の高級車ブランド『DSオートモビル』
DSオートモビルは、もともとシトロエンの上級ラインとして設定されていた「DSライン」を高級ブランドとして独立させたものです。
ブランド名のDSは、かつてのフラッグシップモデル”シトロエン DS”に由来します。
2018年にミドルサイズSUVのDS7クロスバックを初めて発売。日本にも上陸し、パリの芸術性をクルマに反映させた内外装のディテールが最大の特徴です。
その後、徐々にラインナップを拡大し、現在はSUVのDS3、DS7、ハッチバックでCセグメントのDS4、EセグメントのDS9を揃えています。
またDS7とDS9にプラグインハイブリッドを設定。いずれのモデルも「パリ」を象徴するデザインへのこだわりが内外装に反映されているだけでなく、シートや乗り心地もシトロエンよりもさらに磨き上げられています。
フランス車ブランドで唯一の高級ブランドに相応しいクオリティをサイズや車格を問わず享受できます。
小型車を得意としてきたルノーは日産とのアライアンスで変化も
ルノーは125年を超える歴史があり、4CVや4[キャトル]、5[サンク]、トゥインゴ、クリオ(日本名ルーテシア)などの小型車が牽引してきました。
フルゴネット(MPV)も得意で、1997年にデビューしたカングーは第2世代で日本のミニバン市場を切り開きました。
ステランティスのMPV(ベルランゴ/リフター/ドブロ)の日本導入は、カングーの大成功がなければなかったといっても過言ではないでしょう。
SUVでは、コレオス、カジャー、キャプチャー、アルカナなどコンパクトからミドルクラスを中心にラインナップしてきました。
そのいっぽうで1984年のエスパス、セニック、前衛的な内外装が際立っていたアヴァンタイムなど、MPVにも注力してきた数少ない欧州メーカーです。
現在もキャプチャー、アルカナには、独自のハイブリッド「E-TECH」を設定していて、キャプチャーは輸入SUVトップの燃費(22.8㎞/L)も享受できます。
日産を傘下に収めてからは、プラットフォームを共用する兄弟車も展開しています。
アルピーヌは新型A110だけでなくルノーのモータースポーツも担う
フランスの実業家であったジャン・レデレは、ルノーのディーラーを経営しつつラリーなどのレースに参戦。
モータースポーツで好結果を出したことで、スポーツカーメーカーを創業することを決意し、アルピーヌ A106を1955年の「パリ・サロン」に出展しました。
1959年にはA108、そしてラリー界を席巻する名車A110を1963年に送り出します。
1978年には、ルマン24時間レースを制するなど、ラリー、耐久レースで輝かしい歴史を紡いできました。2021年からはF1チームにもアルピーヌの名が冠されています。
また、ルノーのモータースポーツやスポーツモデルを担ってきたルノー・スポール(ルノー・カーズ)は、現在ではアルピーヌ・カーズに再編されています。
現在は、先代から40年ぶりの登場となる新型A110が発売。
日本では2018年6月にフランス大使公邸でプレス向け発表会を開催。日本市場の重要性の高さがアピールされました。
2シーターミッドシップの現行A110は、ポルシェ 718ケイマンと比較されることが多く、カタログモデルだけでなく限定車やカスタマイズプログラムも人気を集めています。
メーカー/ブランドの再編が進んでも独自性を守り続けるフランス自動車ブランド
現在は、ステランティス傘下のプジョー/ シトロエン/DSと、ルノー/アルピーヌという2大勢力になっています。
とくにステランティス傘下の各ブランドは、プラットフォームを共有することもあり、ラインナップ(バリエーション)、パワートレーンが被っているものの、独自の味付けが施されてて、しっかりと各ブランドの美点を享受できます。
ルノーは日産との出資比率の見直し、日産とホンダの提携など今後の動き次第で、また状況やクルマ作りも変わってくる可能性もありそうです。